「砂時計の止め方」 4
「ねえ、何か話そうよ」
ふとリーマスがそう云って微笑んだ。アルコールのせいか、頬に赤味が差している。
微かに渇きにも似た衝動が込み上げてくるのを取り敢えず無視して、俺はワイングラスをゆるく振った。
「もう話してるじゃないか。それにお前少し酔ってないか?うわばみかと思っていたが違うのか」
「んーそんなのどうでもいいじゃない。いいから何か話してよ」
「話って何がいいんだ」
「何でもいいから、ほら、早く」
「何だその子供みたいな態度は」
俺はリーマスの子供染みた笑い方に笑い出した。
ピッチャーからグラスに水を注ぎ、テーブルの反対側に向かって滑らせる。
「ほら、もうワインはやめて水でも飲んでろ」
「そんな話してないだろ」
「あー解った解った」
俺は軽く降参のポーズを取って見せてから、「じゃあ子供には童話だなー」とか何とか云った。
リーマスほどアルコールには強くない俺は今夜はあまり飲んではいなかったのだが、どうやら少しばかり酔っていたようだ。「はーいせんせーお願いしますー」とのたまったリーマスに、よーしじゃあ始めるかーと返事をした。
素面だったらお互い赤面ものだ。
俺はグラスのワインを勢い良く半分ほど飲み干し、唇を軽く舐めてから話を始めた。
「ええと、むかしむかしあるところに、リーマスがいました」
「うんうん」
「リーマスはよく赤いフードのついたコートを着ていたので、赤ずきんちゃんとか呼ばれていました」
「へえー『赤ずきん』かあ」
「そう。それでリーマスはある日お母さんに頼まれてお祖母さんのところへお遣いにいくことになりました……」
俺は酔いに任せてだらだらと誰でも知っている話を垂れ流した。
「……リーマスが森の中を歩いていると、突然森の奥から狼が現われました。狼の名前はシリウスといいました」
そこまで云うと、今までテーブルに頬をべったりとつけて斜めに俺をぼんやりと見上げていたリーマスが、不意ににっこり笑いながら顔を上げた。
「あはは、狼はシリウスなの?」
「ああ」
「それで私がおばあさんの家に辿り着いたとき、そこにはおばあさんじゃなくてシリウスが?」
「まあ、そうなるだろうな」
「だったら私がシリウスに食べられるんじゃなくて、逆に私がシリウスを食べちゃうかも知れないねー」
リーマスは相変わらず凄い笑顔のままワイングラスを空にすると、グラスの縁を軽く舌で辿りながら「だってシリウス可愛いもの……すっごく」と云って更に笑った。
待て。これは何だか……いつもと非常に勝手が違う気がするのだが、気のせい……だろうか。
俺は微妙に危険のようなものを感じ、厭な汗を垂らしながら「も、もう夜も遅いし、そろそろ寝ようか!」と数秒後には確実に却下される提案を空しくしたのであった。
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