074 : 合法ドラッグ



「んっ、ん……っあ!」
松本の口から引き攣ったような声が漏れる前にはもうあいつの反応が手に取るように解っていた。
どこが好きでどこが弱いのかなんてお互いとっくに知り尽くしてる。
それでも止められないのはこのドロドロとした快楽から抜け出せないから。
松本の声や身体の振るわせ方で俺は既に相手の状態をこれ以上無いほど正確に把握していたが、それでも俺は敢えて顔を上げてあいつの顔を見た。
思った通り、目元を羞恥と快楽に赤く染めて、松本が俺を見下ろしていた。少し焦点が合っていないが、それでも目が合った瞬間に松本が顔を一層赤くして微妙に視線を逸らす様子を楽しむ。ぴちゃ、と音を立ててやると、松本も俺の意図に気付いているのか、熱い息を吐きながら少しだけ悔しげな表情を滲ませた。
軽く喉の奥で笑って、俺は改めて松本のそれを銜え直した。同時に後ろに滑り込ませた指をくっと動かす。
「っふ……」
松本の首が軽く反らされ、指がゆっくりと動いてシーツを握り締める。
それにしてもほんとビックリだよなー。緩急をつけて口に含んだそれを舐め上げながら、俺は呑気にそんな事を頭の中で考えた。ほんとビックリ。まずこうやって松本とホモってるのも驚きだけど、男相手にフェラまで出来ちゃうなんて、俺ってある意味多才なのかも。
口に出したらすぐにでも松本に張り飛ばされそうな考えをぼんやりと頭の中で巡らせながら、それでも口と手の動きは休めずにいると、ふと頬に松本の手が触れた。
「しょ……くん……。も、いいから……」
……あ−俺松本のこの顔弱いわ。
催促された途端に今すぐにでも松本の中に押し入りたい衝動に駆られ、俺は表情だけは余裕を取り繕って、その癖態度は性急に松本を組み敷いた。
「えっ……え?ちょっ、翔く、」
焦ったような松本の言葉はとりあえず無視。
こいつは何でかいざヤるぞといった時に非常に無駄な話題を持ち出してくるのだ。携帯の電源を切り忘れただの、シャツが皺になるだの、風呂の湯が出しっぱなしだの。例えばセックスなんて初めだったりなんかするんだったら、焦る余り相手の気を逸らそうとしてしまったりしても仕方が無いだろう。だけど初めての時には何事も無かったのが、それなりに慣れた今になって何故かこの調子だ。お前は何回俺とヤったんだ、と毎回突っ込みたくなる。突っ込まないのは以前突っ込んで松本がいきなり逆ギレしたからだ。
とにかく、松本の話を聞いたが最後だ。俺は聞こえなかった振りをしながら松本の首筋に唇を這わせた。
「しょ、翔くん……翔くん!」
いくら止めたって無駄だ。焦る声も、確信を持った指先によってすぐに意味を成さない音の羅列に変わる。
眉を顰めて熱く吐息する松本に、実は俺も微妙に焦っていたことに気付く。依存しているのだ。それがどうにも悔しくて堪らない。
俺は敢えてちょっと口の端を上げて見せてから、幾つかの囁きと共に松本の腰を引き寄せた。
余裕、とは、演じるものだ。

松本はきっと例によって欠片だって気付いていないのだろう。俺のこの余裕の無さには。
それでもやはり悔しいものは悔しいのだ。
あいつに溺れてしまっているなんて。

ああ、畜生。
俺はもう一度松本に深くくちづけた。