041 : デリカテッセン
ガチャ、という音と主に、ニノが浴室のドアを開けて出てきた。
「……翔くんバスルーム空いたから」
明らかな疲労を声に滲ませ、ニノはほとんど呟くようにしてそう云った。
濡れた髪を雑に拭う手にも力がこもっていない。
ニノはそのままベッドの横までずるずると歩いていくと、こちらを向く気力すらないかのような風情で俺に問い掛けてきた。
「このタオルここに捨てといていい……?」
「あ、うん」
頷いた途端、ニノの手から水を吸って重さを増したタオルがぼたっと音を立てて落ちた。と同時に、ニノもベッドに倒れ込む。
俺はと云えば、今日はちょっと……まあ何と云うか、久し振りだったのもあるけど、いつもよりノリノリだったニノに調子に乗ってしまって。やっぱ少しやり過ぎちゃっ、た……。
と云うか、ニノにキレられなかったのが不思議な気もしないではないんだよね……なんて。
今声なんか掛けたらきっと怒らせてしまうだろうから、せめてしばらくそっとしておいてあげよう。
ベッドにダウンしてから死んだように動かないニノの細い背中を眺めながら、俺はとりあえず心の中でそう決め、シャワーを浴びようとバスルームの方へ向かって歩き出した。
きゅー。
……は?
思わず振り返るが、ニノはさっきと全く変わらない姿勢でベッドにうつ伏せになっている。
しかし心なしかニノの耳の辺りが赤いような気がして、つい「あれ?」と呟いた瞬間、ニノの頬が一気に目に見えて赤くなった。
あーお腹の音か。
セックスって結構体力使うからなー。
そう納得して、俺が気付いていることはもうバレているだろうけど、あえて知らない振りなんかしながら俺はとりあえず寝室からフェードアウトした。
冷蔵庫を開けて、何があるのか確認しながらちょっと考える。
卵、ご飯、鶏肉、あとは……んー、オムライスくらいなら作れないこともないかな。
材料を取り出して、夜食の準備を始める。後で「腹減った!ニノも付き合わね?」とか何とか云って食べさせてやろう、なんて考えながら。
実は家の近くに小さい惣菜屋が出来てさ、ニノ。
時々通りがけに何か買って食べたりするんだけど、あそこの惣菜結構美味いんだよ。
イタリアンでさ。ベーコン入りキッシュとか色んなパスタとかあって、安物だけど悪くないワインだって置いてる。
次に君が来た時、ごちそうしてあげるからね。
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