034 : 手を繋ぐ
何なのお前?って云いたくなる時がある。
それは触れられたくないことに触れられた瞬間だったり(ニノだって俺がそれに触れられたくないってことを解ってるはずなのに、だ)、話し掛けてる俺の声が聴こえてる癖に無視される瞬間だったりして。
そんな時、俺はとにかく心の底からニノにムカつく。
会話する気分じゃないって時があるのは解るけど、じゃあ一言云ってくれればいいじゃん。無視かよ。
折角約束した日だって、気が向かなきゃキャンセルしてくるし。
一緒に居るときは大抵ゲームとかギターとか、自分の趣味重視だし。その上話し掛けるとうざがる。
俺と居る時、ニノはいつだってこんな態度で。
そりゃ俺だって結構態度悪いけど、でもいつまでもこうなのかと思うと、かなり厭になる。
本っ当に、何なの?お前。
「……何なのお前」
体ごとニノの方を向いて、じっと見つめ続けることおよそ十分。
短いようで、俺にとってはかなり長い時間。
俺の視線に気付いていながら完璧なまでに無反応なニノに、俺はとうとう今までずっと溜めてきた一言を口にした。
「何がですか、松本さん」
楽屋のソファに寝転んで雑誌を読んでいたニノが、顔も上げずにそう云った。
そのいかにも聞く気なさげな態度に、またムカつく。
「だから、何なのお前」
繰り返すと、流石にニノも渋々ながら顔を上げた。
「あのですね。何のことだか解らないんですけど。同じこと繰り返してる暇があったら要点だけちゃっちゃっと話してくださいよ」
あっ今のムカついた。
俺は一層不機嫌な顔でニノを睨み付けた。
「ニノって態度最悪。俺も人のこと云えた立場じゃないけど、ニノの態度はいくら何でも最悪だよ」
「へえ。……どこがですか?」
ニノがそう云うので、俺は今まで溜めに溜めてきた鬱憤をぶちまけた。
例えば態度が悪いとか、出不精だとか、構ってくれないとか、そういったことを全部。果ては服装の趣味が合わないことまで勢いで云ってしまったけれど。
俺が不満を並べている間一言も口を挟まなかったニノは数秒間黙った後、俺を挑発するような表情で、わざと下から覗き込むようにして俺を見た。
「じゃあ何ですか、じゃあ松本さんは日に十遍もメールのやり取りをしたり手を繋いで帰ったりしたい訳ですか?」
うっ、と一瞬言葉に詰まってしまったけれど、俺は意地で顎を上げる。
「ああそうだよ!」
云った瞬間、ニノがちょっと呆気にとられた顔をした。
それから醒めた様子で「そんなこと本当にしたいんですか」と云われて、黙っていられなくなる。
「したいよ!てかしろよ。あ、メールは一日最低三通は送ってくること!偶には買い物に付き合うこと!帰りも手を繋いで帰ること!」
勢いに乗せて後先考えずに畳み掛けた。
「いいですよ」
「は?」
思いがけない反応に驚いて眉を顰める。
するとニノが意外にも怒ったような照れ笑いのような表情を浮かべて俺から目を逸らして、それにもまた軽く驚いてしまう。
「いいですよ。そのくらい」
「いいって……メール一日三通?」
「はい」
「買い物に同行?」
「まあ、偶には」
「……手も?」
少し。ほんの少しだけドキドキして、云ってみた。
手を繋ぐなんてオトコノコとオンナノコじゃないんだから、多分俺とニノじゃありえないんだろうけど。
だけどやっぱり訊いてみたくなって。
そうしたらニノが逸らしていた目をふらふらと俺の方に向けて、ほとんど解らないくらい微かに頷いた。
「……松本さんがしたいんだったら、いいですけど」
云いながらニノが照れ隠しのようにちょっと唇を尖らせた。
「そ、そんなの出来る訳ないじゃん」
いつになく優しいニノにやや動揺してしまって、心にも無い言葉が口をついて出る。
あっ、やべ。そう思ったときにはニノはもう怒ったように再びソファに寝転ぶと俺に背を向けてしまった。
怒った?かも。どうだろう。
よりによって肝心なところで失敗してしまったのだけど、それよりニノの優しさが嬉しくて。
何なの、とか思ってたけど、結構優しいじゃん。ニノ。
でもその優しさを出し惜しみし過ぎなんだよっ。
だから俺は手を伸ばして、ソファからたれているニノの手にそっと指を絡めた。
帰りの車の中できっと俺達は手を繋ぐんだろうと微笑みながら。
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