011 : 柔らかい殻



ニノと一緒になって二年が過ぎようとしていた。
メンバーと一緒になって今年で五年目になる。
何故か自分はそのことに何も動じず、何も感じず。
ただ毎日を懸命とは言えないが淡々と過ごして行ってる。
なんだろう。毎日がミラージュの様にただ時間だけが過ぎてゆく。
ニノとも、顔を居合わせて、ときどきキスを交わして、そして一晩を供にして。
それで満足だ、とは自信たっぷりで言う気はないがそれも自分だけに許される特権。
けれど何かが足りなくて。
「愛」が白けてしまわないように自分は緊張感を供にした毎日を過ごす。

愛、という言葉を恐れるのは何故だろう。
好きだ、とか、大切だとか、そういった単語だったら軽々しく発音出来るのにそれをどうしても口にしない理由は、何なのだろう。
口にしたら白けてしまうからだろうか。嘘にしか聞こえないからだろうか。
ニノがその言葉を口にしたところを見たことは無い。
少なくとも、本気で言っているらしいところは。
俺も、多分そんな気障な台詞なんか吐いたことは無いし、これからだって言いたくはない。
――本当に大切だから、言葉を使ってはっきりさせたくないのかもしれない。
ふと、そう思った。
――別に大切だとか、そういうのでもないか。
解らない。

たまたまニノと二人で居るときに、ふとそんな気分になった。
地下にある駐車場に止めた車。コンクリートの階段をニノに続いて降りながら、気付けば何となく俺は言葉を発していた。
「ニノさ、俺のこと好き?」
ほとんど独り言のように呟いたから、普通俺と居てもマイペースというか自己中心というか、俺のことなんて別に気にしないでさっさと行ってしまうニノには絶対に聞こえないはずだった。

それなのに、ちょうどニノが振り向いたものだから、俺は自分でも深く考えていなかった下らない質問を面と向かってニノにぶつける羽目になってしまった。
ニノが悪い訳ではないけれど、何となく恥をかかされたような気がして少し理不尽にむっとした。

「何でそんなこと訊くんですか」
「いや別に。何となく。答えたくなかったら別にいいけど」
半分苛立ちながらぶっきらぼうにそう言うと、流石にニノが変な顔をした。
「何怒ってんだよ」
「さあね」
「ああそうですか」
言って、ニノが微妙に視線を俺から外した。

――あ、もしかしてニノも解ってるのかも。

言葉に、したくないのだ。
多分、色んな意味で。

俺が何も言わないからまたさっさと歩き出したニノの、少し姿勢の悪い背中を見た。
心なしかニノの歩調が速い気がする。

「ニノ」

呼ぶと、俺が呼ぶことを予想していたような素振りで振り返る。
何でもないような様子を装ったニノが、これだけはいつもと変わらない口調で「何ですか」と言った。

「愛してる」
はっきりと、発音した。ニノの目を見て。
多分ニノが今一番聞きたくなかったはずの言葉を吐いて、オレはニノに向かって笑って見せた。


愛なんて嘘っばちな言葉なぞどっかの誰かさんとは違い、あまり信じていない。