010 : トランキライザー



どうしようも、ない。
不意にそう感じる時がある。
そのひどい不安は、いつだって唐突に俺を襲う。まるで事故か何かのように。
あんまり突然にやって来るから、俺はいつだってその不安から逃げ出せなくなってしまう。

「あ、あ……っ!ニノ、っやめ、」
ホテルの一室。組み敷かれて、強引に高められる。
嫌なのに。触れてくる手は冷静過ぎるほど的確に俺を追い詰める。
何とか逃れようと体をよじると、腕を一層強く掴み上げられた。
「い、痛っ」
「じゃあ黙ってて下さいよ」
そう云って、冷たい目で俺を見下ろす。
「んぅ……、んっん!」
潤滑剤と共に押し込まれる指。
中を探るような動きに息を呑む。
「っ何で、だよ……っ」
必死で睨み付けるけれど、多分効果なんて無い。
「あんたにそれを訊く権利なんてありましたっけ。……こんなにして」
ぐい、と足を広げられて、羞恥に目が眩んだ。
ただ慣らすために、抵抗を奪うために指を動かされて、言葉で嬲られる。
お前にとって俺はただのダッチワイフ。
「だま……れ」
すぐにでも泣き声になってしまいそうな声を振り絞って、傷付いていることを押し隠すけれど。

……何で俺はニノに抱かれるんだろう。

不意にあの不安が襲ってきて、俺は堪らなくなった。
押し潰されてしまいそうな、ひどい胸の軋み。
ああ、駄目だ。

「い、やだ……っあ!う……あっ」
強引に押し入られて、その感覚に背筋が震える。
頭を振って拒絶の意思を示すのが精一杯で、だけど拒絶なんて出来やしない。
「……ぃや、だ……っ」
喘ぎを押し殺すように呻く。
それが気に入らないせいか、一瞬苛立ちを見せたニノがわざと動きを丁寧なものに変えた。
「あ!ああっ、は……あ、ふ……」
慣れた体は結局は快感に素直で、それがひどく俺を傷つけた。

何でニノは俺を抱くんだろう。

止めてくれ。 頼むから、お願いだから、俺を見て。
……助けて欲しいのに。

「いっや……、ああっ」
とうとう堪えきれない涙が滲んだ。
涙を見られないように必死で顔を背ける。
「っは、んん……」
なおも突き上げられて、揺すぶられて。
最後の抵抗のように繰り返す拒否の言葉も、何の意味も無くなる。
半ば無理矢理達させられて、中にぶちまけられた。
何の余韻も無くいきなり抜かれて、力の抜けた体を放り出される。
そのままシャワールームに消えたニノの背中を目で追って、天井を見上げた。

何で俺はニノに抱かれるんだろう。
何でニノは俺を抱くんだろう。

……何で俺は、ニノが好きなんだろう。

遠いシャワーの音を聞きながら、俺は声を殺して泣いた。