004 : マルボロ



仕事の都合でホテルに泊まった夜。疲れているはずなのに、午前2時に不意に眼が覚めた。
何となく外に出たくなって、同室の相葉ちゃんを起こさないようにそっと部屋を出た。

誰も居ない廊下を歩き、エレベーターでフロントまで降りる。
そのままホテルから出て、迷わない程度に適当に方向を決めて、少し歩く。
適当に角を曲がると街灯の少ない暗い路地に出たので、引き返そうかと一瞬考えてから少し先に見える自動販売機の辺りまで歩くことにした。

誰も居ない道。
無機質な自動販売機の明かり。
遠くに並ぶ街灯の途切れ具合から、近くには川があるのかも知れ無いな、と考えてみる。

俺は自動販売機の横の電柱に寄りかかり、静まり返った夜空を見上げた。
冷たく澄んだ空気と、ひどくとがった雰囲気の夜。
こんな時に考える事なんて無い。
確かに夜は俺を感傷的にさせるけど、その代わりのように下らない後悔とか不用意に傷付いた傷とか、そういったものは結構どうでもよくなる。
ただ、夜がひんやりとしていて。

もう一度夜空を見上げて、そのまま一歩足をずらした途端、クシャッという音がした。
何だろうと思って見ると俺はマルボロのパッケージを踏んでいた。
電柱に寄りかかったまま靴の爪先でそのパッケージを軽く蹴る。
思ったよりも軽いそれは、遠くに行くと思ったら意外と飛ばなくて。
何度か蹴ってみても俺の爪先からはそれほど離れなくて、それがちょっと笑えた。
しばらくそれを弄ってから、俺は電柱にもたれていた体を起こした。

もと来た道を引き返して、ホテルの部屋に戻る。
そういう気配に結構敏感な相葉ちゃんは起きると思うけど、そしたらちょっと雑談でもしようかな。
明日も仕事なのに、俺の機嫌がいいのに多分相葉ちゃんは驚くのかも。松潤、今日はどうしたの?って感じで。
でも、たまにはそういうのも結構いいじゃん?

今夜なら、ちょっと普段云えないようなことだって云えそうな気がする。
……ま、実はさっきふと相葉ちゃんを思い出してしまったってことは絶対に云う気は無いけどね。
俺はいつになく楽しい気分で部屋のドアを開けた。