002 : 階段
雑誌の撮影が、最近何となく好きだ。
俺のピンでの撮影が終わって、戻るついでに次の奴を呼びに行く。
些細なことではあるけれど、それが少し気に入っているからだ。
「じゃあ二宮さん、次松本さんなんで」
「解りました」
カメラマンや他のスタッフに背を向けながら軽く頷いて、廊下を歩く。
その先にある階段を半分ほど降りたあたりで、他の誰かの足音が聞こえてきた。
迷いの無い足音と共に現れたのは、案の定松本で。
多分大体の時間を見計らって出てきたのだろう。こいつも最近こんな行動が多い。
まあ、だからこうやって階段ですれ違う訳なのだけれど。
一歩一歩、普段と変わらない速度で階段を降りる。
お互いひどく平然とした顔で、けれど段々と近付く距離を理由も無く強く意識する、その数秒間。
視線は敢えて合わせない。何の未練も無くすれ違って、心の中でだけ松本の後ろ姿を追った。
この瞬間が、好きだ。
他愛も無い数秒間。
だけど、もしかしたら一日のうちで一番松本を強く意識しているのかも知れ無い瞬間。
階段の上と下で、お互いの存在を確認し合う。
暗黙の了解と、微かな緊張感。
俺は階段を下りきって、そのまま廊下をゆっくりと歩き続けた。
……あいつもこの瞬間を作るためにこうやって呼びもしないうちに来るんだろうか。
確かめるつもりもないし、確かめたいという気もしないけれど。
頭にふと浮かんだその考えに、俺は自分にしか解らない程度に口の端を上げた。
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