幸福論 2
あれから数日後、俺は自分の読みが浅かったことを嫌というほど実感させられていた。
好きだって自分からはっきりと云おう。そう心に決めたのはいいものの、なかなかそれを云い出せるようなシチュエーションに持ち込めないのだ。
何とかして二人きりになろうと画策はしてみるものの、こういう時に限って片っ端から失敗。
ようやく二人きりの状況に持ち込めても、雰囲気が全然素っ気無い。出来るだけ自然に話題をそっちへ持っていこうとするのだが、それも上手くいかないし。……というか、持ち込ませてくれる程ニノは俺に操られていないというか……。
数日そうやってソワソワと機会を窺っていたが、成果はさっぱり上がらないまま無駄に時間は過ぎてゆく。
半ば諦めかけた頃、仕事が終わって楽屋で帰りの支度をしているとニノにさり気なく「明日は?」と訊かれた。
こうやって訊いてくる以上、ニノもオフだってことだ。
オフだけど、と短く答え、自分も支度を済ませてニノを追うようにして楽屋を出た。
いつものようにビジネスホテルのベッドに座って、先にシャワーを浴びているニノが出てくるのを待つ。
待っている間、何となく所在が無くてソワソワしてしまいながらも、俺はちょっと悶々としていた。
今が云い出す機会だ。だけどそれもちょっと躊躇われるし……。
だからといって、このまま云わないで居たらいつまで経っても変わらない。
よし、云うぞ、とはっきり腹を決めた頃にニノがバスルームから出て来た。
す、と伸ばされた手が俺の頬に触れる。
額に軽く口付けられながら、俺は「ねえ、ニノ」と話し掛けてみた。
「……ん?」
ニノの腕が肩に回される。大抵は有無を云わさず俺を押し倒すんだけど、今日は話を聞く気になったのかそのままストンと俺の隣に座った。
「……あのさ、この間……」
とりあえず適当な辺りから話を始めてみた。
自然な流れ、自然な流れ。
そう自分に云い聞かせながら、その一言を云い出せる機会を窺った。
だけど、会話の流れは思った方とは逆にどんどん逸れて行ってしまう。何とかして話を戻そうとはするのだが、ニノも何だかんだ云って人の話を聞かないタイプなので、上手くいかない。
四苦八苦するうちに段々イライラしてきた。
「……で?それがどうかしたんですか」
何時までも続く会話にいい加減面倒になってきたらしく、ニノの返事も適当になってきた。
……人の苦労を何だと思ってる訳?
てか何で俺がこんなに苦労しなきゃいけないんだよ。
そう思ったら凄くムカついた。
「全部ニノのせいだー!」
思わず、逆ギレ。
一瞬「しまった……」と思ったけど、ニノが飄々と「俺が何かしました?」何て云うものだから、余計ムッとしてしまった。
「俺お前が好きなのにお前は何なんだよ!」
「えー俺は松本さんが好きですよ?」
ニノが究極にかったるそうにそう返した。
……何それ。
「投げやり!投げやりだよそれ!俺は本気で訊いてんだよ!」
怒って抗議しても、ニノは聞く耳持たず。「はいはい」とか何とか云いながら、軽いキスを繰り返して俺をゆっくりと押し倒した。
「ちょ……ニノっ」
ヤりたいのは解る。もともとそのつもりでホテルに来た訳だし。
だけど何なの?この態度。
俺が散々悩んだりあんなに苦労した結果がこの態度?
話も聞かないで、いつもみたいにやることやって寝ておしまいって訳ですか。あーそうですか。
人を馬鹿にすんのもいい加減にしろ!
「もう今日はやだ!」
強く云い切って、体に触れてくるニノの手を押し返した。
「はあ?」
ニノがちょっと眉を顰めた。
「ニノがきちんと答えてくれるまでニノとはやらない!」
ムキになって云うと、ニノが軽く溜め息を吐いた。
「あのーホテル代俺持ちなんですけど」
そういう問題じゃないだろ、とムカっとくる。
「当たり前だろ!ヤらせてんだろ!」
自分こそそういう問題じゃないとは思いつつも、俺はニノを強く睨んだ。
雰囲気がどんどん険悪になってくる。
ニノの視線が冷えてくるのにかなり後悔しながら、それでも俺は後には引けなくてニノを睨み続けた。
「……そうですか。じゃ勝手にして下さい」
そう云ってニノは興味を失くしたような顔をして俺の上からどいた。
俺も恐る恐る体を起こす。
「……俺も勝手にするから」
その言葉と共に足を掴んで引き倒された。
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