幸福論



俺とニノは、多分それなりにお互いが好きだから一緒に居るんだと思う。
自分がニノに好かれているって確信なんか無いし、男同士で今更愛だの恋だのぐだぐだ云う気だって無い。第一、俺たちは恋人同士なんかじゃない訳だし。
それでも、少なくとも俺はニノが好きだし、ニノが傍に居てくれればそれで結構満足だ。
たけど、やっぱり心許無くなる時だってある訳で。
そんな時はつい、はっきりした言葉があればどんなにいいだろうと思ってしまう。


はあ、と今日で何度目かの溜め息が漏れた。
最近本当に忙しい。
別に忙しいのは今に始まったことじゃないけど、立て続けに入ってきた仕事のせいで、ここのところニノとは二人きりになるどころかまともに会話も出来ていない。
いくら仕事で顔を合わせてはいても、二人で会うのとは根本的に違う。みんなと一緒に居る限り俺は「嵐の松潤」で、どうしたってそれ以上にはなりようがないし、なる訳にもいかない。
だからあまり認めたくは無いけれど、俺は淋しさで少しヘコんでいた。
明日みんなはオフだけど、俺はまだ仕事があるからニノと会うわけにもいかない。それがまた俺の気を重くする。
特に、先に帰った翔くんと大野くんがいつになく楽しげに会話をしているのを見て、あの二人はこれから一緒に過ごすんだろうなとつい思ってしまったのがいけなかった。
ニノだってさっさと帰っちゃったし。
俺のテンションは急降下していき、結局俺は楽屋のソファに倒れこんで重い溜め息を吐いた。
「どうしたのー?松潤。元気無いね」
相葉ちゃんの声にのろのろと顔を上げる。
「うん……」
いかにも落ち込んでいますっていう感じだけど、仕事の疲れもあって、もう元気に見えるように振舞う気力も無かった。
どうせ此処には俺と相葉ちゃんしか居ないんだし、隠しても仕方ないっていうのも本当だけど。
「疲れてんねー。それとも何、ニノと喧嘩でもした?」
「いや、そういう訳じゃないんだけどね……」
ニノがらみって辺りは、当たり。
それなりに的を得た相葉ちゃんの質問に苦笑する。
「あーじゃあ淋しいんだ」
「……まあ……それはそれなりに……」
淋しい、と口に出すのは流石に恥ずかしくて、俺はモゴモゴと言葉を濁した。
だけどこんなこと普段なら絶対に云えない。それだけヘコんでいたんだ、と改めて実感した。
相葉ちゃんもそれに気付いたようで、それでもいつもの笑顔を浮かべて見せてくれる。
「元気出しなよー。落ち込んだってどうしようも無いじゃん」
「うん……」
俺は俯いていた顔をちょっと上げた。
こんなことでいちいち人に頼っていたらよくないんだけど、やっぱり少しでも頼れる人が居るって結構ホッとする。
「フフ、実は看護婦さんプレイとかしたいのに云い出せないとか?」
……前言撤回。
少しでもしんみりしていただけにガックリ来た俺は、恨みを込めて相葉ちゃんを軽く睨んだ。
「あれ、違うの?……解った婦警さんだ!」
「相葉ちゃん……」
下らない発言に呆れつつも、ちょっと笑ってしまっている自分に気付く。
俺はソファに再び顔を埋めながら、相葉ちゃんのノリに合わせて少し弱音を吐いてみた。
「ニノが……さ。好きって云ってくれないんだよね」
云ってから、自分で自分にちょっとびっくりした。
えっ、そうだったの?って感じ。
でも確かにそうだった。ニノとは趣味も違うし、考え方だって大分違う。二人が一緒に居ると結局行き先はホテルになって、することをしたらあとは寝るだけだ。
以前とちっとも変わらない関係、何も云わないニノ。背中にお互いの気配を感じながら、無言で目を閉じる夜。
安定しているようなそうじゃないような、曖昧な雰囲気と共に黙り込む。
たまにははっきりした言葉で安心させて欲しい。
「じゃあさ、松潤はどうなの」
しばらく黙っていた相葉ちゃんが口を開いた。
「……え?」
「松潤はニノが冷たいって云うけど、松潤だって何も云ってないんでしょ?自分から何も云わないんじゃニノも云わないんじゃないの」
「あ……」
それは盲点だった。
「云っちゃえ云っちゃえ!『かずなり、愛してる〜!』」
相葉ちゃんが茶化すから俺はちょっと照れてしまい、「ふざけんなよっ」なんて軽く怒った振りをして慌てて誤魔化した。
だけどその日は相葉ちゃんのお陰でずっとマシな気分で家路についた。
落ち込んでしまった原因も対処法も解ったんだから、もう大丈夫かもしれないと思いながら。